――ああ、でも、本当におかしな話しなのだ。
おかしなことの上に、またおかしなことがあるのだ。
ほくの大好きなべにちゃんは、こんなネクタイのことが好きなのだ・・・。
「伊集院くんてすてきよね。・・・なんというか大人っぽくて落ち着いていて、貫禄(かんろく)があるわ。そうしたものってやっぱり家柄や育ちの良さが大切なのかも」
大人っぽくて落ち着いていて、貫禄がある? 違うよ、あれはふてぶてしいっていうんだよ!
なんだいべにちゃん、家柄や育ちの良さ? それならクリーニング店を開いている、お父さんとお母さんから産まれたぼくは、生まれながらにして、すてきにはなれないっていうの!?
ぼくんちに家柄なんて大そうなものはない。育ちも時折クリーニング店のカウンターに立つこと以外、普通の子と変わらないと思う。
べにちゃんは、いつもこんな風にぼくにネクタイのことを話す。あこがれと尊敬の話。
ぼくの耳は、1千万本の矢をぶつけられたようにイタい。そのたび、心の中でべにちゃん反発するのだ。