ネクタイはひょいと手紙をひったくるようにして受け取ると、表を見、そして裏を見た。
ネクタイのまゆ根がより、ゆるんだ顔で、口元を持ち上げる。うすら笑い。
そして、ポイッと手紙を放りなげた。
うす桃色の手紙は、コツンとぼくの胸にあたって、音もなく屋上の地べたに落っこちる。べにちゃんの想いが地べたに捨てられる。
「困るなぁこういうのキリがなくて、竹春、てきとうに断っておいてくれる。小竹さんだなんて、ぼくちっとも興味がないらさぁ」
ネクタイの言葉がやけに遠くできこえた。
神経が逆立ち、気づいた時には、ぼくは手を出してしまっていた。
「コノヤロー! 読みもしないで、ふざけるな!!」
両手で思い切り、ネクタイをつき飛ばした。
ネクタイはしりもちをついて、始めはびっくりしたようにぼくのことを見ていた。
ネクタイは、ずるがしこい。ずるがしこいというのも、かしこさのうちのひとつに違いなく、つまりネクタイはこの一瞬に、ぼくの気持ちを理解したのだった。
ネクタイは尻もちをついたことを恥じるように、ズボンをはたきながら立ち上がる。そしてぼくを鋭くにらみかえした。
「ぼくが小竹さんをどう思おうと、ぼくの勝手さ。きみのそれはただのジェラシーさ。ふふん、みっともない!」
ネクタイは軟弱(なんじゃく)ではない。
伊集院家の男子たるもの云々(うんぬん)で、小さな頃からいろいろな武道に通じている。
ネクタイの右手がふっと見えなくなったと思った瞬間、左ほおに強烈な痛みを感じた。
空手の正拳(せいけん)づきだ。そして、いち! に! と中段づきが、ぼくのみぞおちをきれいにとらえた。ぼくはぐっと痛みをこらえる。