あのときのべにちゃんは、こんな気持ちでいたのだろうか? ぼくは2年半前のべにちゃんを思った。
いや、違う。べにちゃんはあのとき戦っていた。ぼくは逃げてきたのだもの・・・。
春が、いごこち良さげに、居すわっているのが見てとれた。あの田の上にも、あのアシの上にも、あの雲にも、天が原セレモニーの建物にも。春色のやさしい日光で、包み込んでいる。
でも春は、けしてぼくのところへはやってこなかった。ぼくの方でも、春になんの興味もおぼえなかった。
それから太陽が、東から西へ、大きな弧をスローモーションで描きながら進んでゆく。
そしてろうそくの火が消えるように、辺りはふっと暗くなり、気づいたときには、まん丸の月が東の夜空に浮かんでいた。
いく千の風が、ひっききりなしに渡っていて、アシの大草原は、ゆかい気に銀色の波をつくっている。
風はぼくのところへもやってきたが、髪をゆらすだけで、やっぱりぼくは、ちっとも愉快にはなれない。
世界は、ぼくをすっかり見捨てて、進んでいるようだった。