春を泳ぐヒカリたち(9/11)

文・高橋友明  

帰り道。
ぼくは、べにちゃんに、どうしても話さなければいけないことがあることに気がづいた。それは今でも話したくないけど、べにちゃんに嘘をつくことはできない。
どうやって話すべきか考え、300秒ほどたったあと、意を決して話し出す。

「べ、べにちゃん、・・・ネクタイは、あの、その、手紙を・・・」
ネクタイがべにちゃんをどう思っているか、話そうとした。
するとべにちゃんは、一度立ち止まった。
そしてこっちを見ずにいった。

「・・・うん。わたしふられちゃったね。伊集院くんから、気持ちは嬉しいけど今は受けられないって、丁寧な手紙をもらったわ。・・・でも、わたし、あきらめない。中学だって同じだもの、いつか、振り向いてくれるかもしれないじゃない・・・。」
それからべにちゃんは五歩進み、今度はしっかり振り向いていった。

「それよりたけちゃん、伊集院くんと取っ組み合いのけんかをしたでしょう? 伊集院くんにきいても、わたしには関係ない男と男のけんかをしただけだって、ちっとも取り合ってくれないのよ」
ん?
「・・・ネクタイのやつ、ぼくの悪口、なにもいわなかったの?」

「うん、ちっとも。それどころか感心してた感じよ。あいつは偉い、あいつは偉い、ぼくは大事なことを教えてもらったんだ、って。・・・でもそれならなんでけんかするのかなぁ?  わたしにはちっともわかんない」
・・・意外だ。

高橋友明 について

千葉県柏市在中。日本児童教育専門学校卒業。 朝昼晩に隠れているその時間ならではの雰囲気が好きです。やさしかったりたおやかであったり、ピリッとしていたりする。 同様に春夏秋冬や天気や空模様も好きです。 そうしたものを自分の作品を通して共感してもらえたら幸いです。