「ネクタイがいったことはそれだけ?」
「あと、かわいそうだって。でも、なにが偉くてなにがかわいそうなのか、これもまったく話してくれないのよ。本当はね、たけちゃんにもきいちゃいけないっていわれたの。でもわたしとたけちゃんの間にかくしごとなんて、やっぱりできないもの・・・」
心の底から驚いた。あのネクタイが、そんなこというはずはないのだ。
ぼくは、なにもいえなかった。
「今日のこともそれと関係があるんでしょう? 学校さぼってあそこにいるだなんて、ただ事じゃないわ・・・。いいたくないのならしかたがないけど。わたしたちの間にかくしごとがあるなんて、なんかやな感じー。わたし、かくしごとってきらいよ」
べにちゃんはぼくの顔を見る。眉根を寄せて、唇をとがらせ、いかにも不服だという顔。正直に話せと問い詰めている表情。
でもやはりそのときは、なにも答えることが出来なかった。いろいろなことがいっぺんにありすぎて。
「ごめん、べにちゃん。いつか必ず話すから。その、今は、どう話していいかわからないんだ。」
「んー、・・・まあいいわ。必ずよ、必ずいつか話してね、私たちに隠しごとなんて、いっさい認めないんだから」
念を押すように、じっとぼくを見つめるべにちゃん。
頭を縦にふったが、ぼくは別のことを考えていた。
ネクタイのことを考えていた。
伊集院 大河。いじゅういん たいが。
ネクタイって・・・。