時が流れれば、誰もがこの絵本の主人公になっていく

来るべき高齢期への手引き書となる

といっても、この絵本、学生時代に使ったフランス語のテキストを思わせる小ささ、薄さで、その簡易な造作が、主人公のポリシーに忠実だ。
おばあさんは、結婚後にフランスに渡ったユダヤ人の移民で、ヒットラーの時代を生き抜き、重過ぎる過去を“秘密”と割り切って、家族や他人には陽気でサバサバした顔しか見せない。重たさを隠す努力を続けている。
それでも、時々、「あなたにはそんな不幸せな秘密がありますか」と問わずにはいられない。

90歳のおばあさんは、歩いたり食べたり眠ったり、そんな何でもないことさえ、若い時の百倍くらいの力を注いでこなしていかなければならない。家族に「なにかいるものはない?」と聞かれたら「ノン、なんにも」と答える。ほしい物が何もない、というのは本音だろうし、まわりに心配を掛けないための気配りでもあり、おばあさん自身のプライドでもあろう。

「もういちど、若くなってみたいと思いませんか?」の問いに、「わたしの分の若さはもうもらったの」と答える。自立する素敵なおばあさん!

あなたが中年以上の年齢だったら、来るべき高齢期への手引き書となるし、若者だったら、老人の苦労、痛みを知る教科書になるはずだ。

いずれにせよ、時が流れれば、誰もが「おじいさん、おばあさん」と呼ばれ、この絵本の主人公になっていく。そういう意味では、特定の世代に向けた絵本ではなく、みんなのための絵本なのだろう。

女優の岸恵子さんが訳した日本語も美しいし、サンペの流れを汲むセルジュ・ブロックの絵もフランスらしくて小粋な絵本だ。

田村理江 について

(たむら りえ)東京都生まれ 成蹊大学文学部日本文学科卒業。日本児童文学者協会第15期文学学校を終了。 第6回福島正実記念SF童話賞を受賞して、『ガールフレンドは宇宙魔女』(岩崎書店)を出版。 児童書の作品に『リトル・ダンサー』(国土社)、『夜の学校』(文研出版)、『魔の森はすぐそこに・・・』(偕成社)など。絵本の作品に『ふなのりたんていラッタさん』(フレーベル館)、『ハンカチのぼうけん』(すずき出版)など。 HP:田村理江のページ