見た目はA4サイズくらいの引き出し型の箱で、アンティークな青銅色をしている。取っ手はアールヌーボー風なデザイン。部屋に置いておくと、ヨーロッパのアクセサリーボックスみたい。取っ手を引っぱると、中にローラーや、ロウ紙、インク瓶が揃っている。
「こんなもん、どうするの? 高かったでしょ?」
ネットでこれを見つけて買った時は、ママにあきれられたけど、使い道は決まっている。手芸作品を売り出す時のタグやショップカードを、これで可愛く作ろうってわけ。デザインは決めたから、今日は初めて刷ってみる。
「えーっと、まずはデザイン画の上にロウ紙を乗せ、線を鉄筆でなぞって原紙を作る」
巻かれたロウ紙を開いて、その一枚をそっと台に乗せた。
「ん?」
未使用ではあるが、物が物で時間が経っているから、用紙も年季が入っている。その片隅に、(S12.08)と、数字が削られていた。
「前の所有者が少し使ったのかな? 偶然だなぁ、今日は12月8日だもん」
ガリ版での印刷は、初めてにしてはスムーズにできた。小学生の頃にやった木版や芋版みたいに、ローラーにインクをつけ、一枚ずつ、地道に刷っていく。このアナログさが、デジタル時代には新鮮だ。
『プチショップ・クローバー』
これが私のお店。できた!