暗号の意味 ーーBOOK展2023より

文と絵・田村理江

見た目はA4サイズくらいの引き出し型の箱で、アンティークな青銅色をしている。取っ手はアールヌーボー風なデザイン。部屋に置いておくと、ヨーロッパのアクセサリーボックスみたい。取っ手を引っぱると、中にローラーや、ロウ紙、インク瓶が揃っている。

「こんなもん、どうするの? 高かったでしょ?」
ネットでこれを見つけて買った時は、ママにあきれられたけど、使い道は決まっている。手芸作品を売り出す時のタグやショップカードを、これで可愛く作ろうってわけ。デザインは決めたから、今日は初めて刷ってみる。

「えーっと、まずはデザイン画の上にロウ紙を乗せ、線を鉄筆でなぞって原紙を作る」
巻かれたロウ紙を開いて、その一枚をそっと台に乗せた。
「ん?」
未使用ではあるが、物が物で時間が経っているから、用紙も年季が入っている。その片隅に、(S12.08)と、数字が削られていた。

「前の所有者が少し使ったのかな? 偶然だなぁ、今日は12月8日だもん」
ガリ版での印刷は、初めてにしてはスムーズにできた。小学生の頃にやった木版や芋版みたいに、ローラーにインクをつけ、一枚ずつ、地道に刷っていく。このアナログさが、デジタル時代には新鮮だ。
『プチショップ・クローバー』
これが私のお店。できた!

田村理江 について

(たむら りえ)東京都生まれ 成蹊大学文学部日本文学科卒業。日本児童文学者協会第15期文学学校を終了。 第6回福島正実記念SF童話賞を受賞して、『ガールフレンドは宇宙魔女』(岩崎書店)を出版。 児童書の作品に『リトル・ダンサー』(国土社)、『夜の学校』(文研出版)、『魔の森はすぐそこに・・・』(偕成社)など。絵本の作品に『ふなのりたんていラッタさん』(フレーベル館)、『ハンカチのぼうけん』(すずき出版)など。 HP:田村理江のページ