暗号の意味 ーーBOOK展2023より

文と絵・田村理江

「これ、家にあったのとそっくり」
曾祖母さんが大事にしていたガリ版機と、まったく同じだと言う。ママまで神妙な顔つきになった。
「売り払った骨董が、巡り巡って、ひ孫のところまでたどり着いたのかしら?」

運命ってすごい! じゃあ、ロウ紙の暗号は、曾祖母さんから私への大切な指示に違いない。
それからの私は、ロウ紙の暗号通りの日にちに、作品をアップするようになった。どの作品も、売れた。売れると、もっとクオリティーを上げなきゃ、と力が入る。私の作品は、、自分で言うのも何だけど、プロの域に入ってきた。

「就職をやめて、ハンドメイド作家として独り立ちしようかな?」
春が近くなって、そんなことを考え始めた時、ガリ版機を買ったネットショップから、メールが入った。
『ご愛顧ありがとうございます。
先日、お買い上げいただいたガリ版機に不備がございました。未使用と記しましたが、仕入先のS会社が製品管理のための数字を書き入れてあることが判明。複数のお客様から問い合わせがございました。つきましては、返品に応じさせていただきますので―――』

なーんだ、と思った。いっぺんに夢が覚めた。でも、ガリ版は楽しい。返品なんかせずに、長く手元に置いて、大事にしたい。
「とりあえず、就職しながら、ハンドメイドも頑張ろう!」
私はちょっぴり現実に戻り、手堅く進路を選んだ。
(おわり)

田村理江 について

(たむら りえ)東京都生まれ 成蹊大学文学部日本文学科卒業。日本児童文学者協会第15期文学学校を終了。 第6回福島正実記念SF童話賞を受賞して、『ガールフレンドは宇宙魔女』(岩崎書店)を出版。 児童書の作品に『リトル・ダンサー』(国土社)、『夜の学校』(文研出版)、『魔の森はすぐそこに・・・』(偕成社)など。絵本の作品に『ふなのりたんていラッタさん』(フレーベル館)、『ハンカチのぼうけん』(すずき出版)など。 HP:田村理江のページ