「これ、家にあったのとそっくり」
曾祖母さんが大事にしていたガリ版機と、まったく同じだと言う。ママまで神妙な顔つきになった。
「売り払った骨董が、巡り巡って、ひ孫のところまでたどり着いたのかしら?」
運命ってすごい! じゃあ、ロウ紙の暗号は、曾祖母さんから私への大切な指示に違いない。
それからの私は、ロウ紙の暗号通りの日にちに、作品をアップするようになった。どの作品も、売れた。売れると、もっとクオリティーを上げなきゃ、と力が入る。私の作品は、、自分で言うのも何だけど、プロの域に入ってきた。
「就職をやめて、ハンドメイド作家として独り立ちしようかな?」
春が近くなって、そんなことを考え始めた時、ガリ版機を買ったネットショップから、メールが入った。
『ご愛顧ありがとうございます。
先日、お買い上げいただいたガリ版機に不備がございました。未使用と記しましたが、仕入先のS会社が製品管理のための数字を書き入れてあることが判明。複数のお客様から問い合わせがございました。つきましては、返品に応じさせていただきますので―――』
なーんだ、と思った。いっぺんに夢が覚めた。でも、ガリ版は楽しい。返品なんかせずに、長く手元に置いて、大事にしたい。
「とりあえず、就職しながら、ハンドメイドも頑張ろう!」
私はちょっぴり現実に戻り、手堅く進路を選んだ。
(おわり)