雪が降ってきました。雪はどんどん降り積もり、むき出しだった地面を優しく覆いました。そして、もう一度、太陽が現れた時、そこはすばらしい銀世界に変わっていました。
クモは、もう、動くことができませんでした。雪の中に、半分、埋まって、ただ、黙って、ガラスのように澄んだ青空を見上げていました。
そばの枯れ枝には、今は穏やかな光をたたえて、女神の花嫁衣装がかかっていました。やっと完成したのです。
クモは、しきりに、たった一人の友だちだったハナアブのことを考えていました。
「気のいいやつだったな。おれが全然相手にしなかった時でも、いつも機嫌よく話しかけてくれたっけ。もっと優しくすればよかったな。何しろ、忙しかったものな。今なら、ゆっくり、話し相手ができるんだが・・・」
クモはハナアブのおしゃべりがどうにも恋しくてたまりません。
「そういえば、あいつ・・・」
クモはクツクツと含み笑いをしました。
ハナアブが、
『その仕事が終わったら、ここを抜け出して、一緒に花畑に行こうよ。なあに、女神様だって見逃してくれるよ。君はこんなに一生懸命やっているんだもの。おいらが花畑の隅から隅まで案内してやるよ』
と言ったことを思い出したのです。
「あの時はとんでもないことを言うやつだと思ったが、一度でいい、ほんとに、あいつと一緒に野原を巡りたかったな」
クモは、自分がハナアブの来るのを心待ちにしていたことに初めて気がつきました。そして、自分の仕事を最後までやり遂げることができたのも、実は、ハナアブのおかげだったと感じました。
ユリの牢獄の中で仕事に嫌気がさした時、寂しさに押しつぶされそうになった時、寒さと闇が降りてきて何もかもをあきらめかけた時でさえ、自分は一人ではない、つながっている友だちがいるという強い思いが心を支えていたのです。