楽園のクモ(3/3)

文・伊藤由美   絵・岩本朋子

女神は、もう一度、クモに向かってほほえむと、ぱっと踵(くびす)を返し、白い息を弾ませながら、疾風のように駆けて行ってしまいました。女神の通ったあとには青草の道が現れ、チョロチョロと水も流れ始めました。
カランカラーン・・・。
女神の結婚を知らせる鐘の音が野原に響き渡りました。刺すように冷たかった空気も、ふんわり、和らいで、しびれたクモの体にも、暖かい、春の日差しが感じられました。

クモは、だんだん、眠くなっていきました。
『お休み、クモ君。君はずいぶん働いた。さあ、ゆっくり、休もうじゃないか・・・』
どこかでハナアブの声が聞こえました。
クモは、にっこり、うなずくと、静かに目を閉じました。高い空でさえずるヒバリの声を聞きながら。

伊藤由美 について

宮城県石巻市生まれ。福井市在住。 ブログ「絵とおはなしのくに」を運営するほか、絵本・童話の創作Online「新作の嵐」に作品多数掲載。HP:絵とおはなしのくに

岩本朋子 について

福井県福井市出身。同市在住。大阪芸術大学芸術学部美術家卒。創作工房伽藍を主催。伽藍堂のように何も無いところから有を生むことをコンセプトでとして、キモノの柄作りからカラープランニング等、日本の伝統的意匠とコンテンポラリーな日用品(漆器、眼鏡、和紙製品等)とのコラボレーションを扱い、オリジナルでクオリティーの高いものづくりを心掛けている。また、高校非常勤講師として教えるかたわら、福井県立美術館「実技基礎講座」講師を勤める。