女神は、もう一度、クモに向かってほほえむと、ぱっと踵(くびす)を返し、白い息を弾ませながら、疾風のように駆けて行ってしまいました。女神の通ったあとには青草の道が現れ、チョロチョロと水も流れ始めました。
カランカラーン・・・。
女神の結婚を知らせる鐘の音が野原に響き渡りました。刺すように冷たかった空気も、ふんわり、和らいで、しびれたクモの体にも、暖かい、春の日差しが感じられました。
クモは、だんだん、眠くなっていきました。
『お休み、クモ君。君はずいぶん働いた。さあ、ゆっくり、休もうじゃないか・・・』
どこかでハナアブの声が聞こえました。
クモは、にっこり、うなずくと、静かに目を閉じました。高い空でさえずるヒバリの声を聞きながら。