それはアウロラの4歳の誕生日のことでした。お城の中は、盛大なお祝いの準備で、朝からてんてこまいでしたが、王妃さまは、ゆったりと、庭を散歩していました。
そこへ、どこからともなく、みすぼらしい身なりの女がやって来て、王妃さまの足もとにうずくまりました。
「どうぞ、おめぐみください、王妃さま。代わりに、あなたさまの願いを、何でも、かなえてさしあげましょう」
「おまえのような卑しい者が、私の願いをかなえるだって。なんて生意気な」
王妃さまは、ひどく、腹が立ちました。そこで、女をこらしめてやろうと思い、
「いいでしょう」
と、はいていたくつの片方を、ポンと、女に投げつけました。
「では、かなえてごらん。私の願いは、わが娘アウロラの幸せです。この国の王女として、ほしいものは何でも与えられ、だれよりもぜいたくに、大切に育てられているアウロラを、今以上に幸せにすることが、おまえにできますか」
王妃さまは、「ふふん」と、鼻で笑って、
「できぬと言うなら、今すぐ、おまえの首をはねさせますよ」
と、きびしい目で、女を見下ろしました。
王妃さまは、すぐにでも、女が泣いてあやまると思ったのです。
ところが、女は、くつを拾って、すっくと立ち上がりました。その背の何と高かったことでしょう。
そして、汚いマントを、さっと、ぬぎ捨てると、その下から、ピカピカに輝く木の葉のドレスが現れたのです。召使いたちは、「あっ」と、飛びのきました。
「大変だ。森の魔女だ」
けれども、王妃さまだけは平気なふりをして、魔女をにらみつけ、なおもふんぞり返りました。そのようすを見た魔女は、からからと笑い、
「おまえさんの願いは、確かに、引き受けたよ」
と、言いのこして、すたすたと、木々の間に消えました。
正直な王様ハンス(1/3)
文・伊藤由美 絵・伊藤 耀