正直な王様ハンス(1/3)

文・伊藤由美   絵・伊藤 耀

それはアウロラの4歳の誕生日のことでした。お城の中は、盛大なお祝いの準備で、朝からてんてこまいでしたが、王妃さまは、ゆったりと、庭を散歩していました。
そこへ、どこからともなく、みすぼらしい身なりの女がやって来て、王妃さまの足もとにうずくまりました。
「どうぞ、おめぐみください、王妃さま。代わりに、あなたさまの願いを、何でも、かなえてさしあげましょう」
「おまえのような卑しい者が、私の願いをかなえるだって。なんて生意気な」
王妃さまは、ひどく、腹が立ちました。そこで、女をこらしめてやろうと思い、
「いいでしょう」
と、はいていたくつの片方を、ポンと、女に投げつけました。
正直王ハンス1「では、かなえてごらん。私の願いは、わが娘アウロラの幸せです。この国の王女として、ほしいものは何でも与えられ、だれよりもぜいたくに、大切に育てられているアウロラを、今以上に幸せにすることが、おまえにできますか」
王妃さまは、「ふふん」と、鼻で笑って、
「できぬと言うなら、今すぐ、おまえの首をはねさせますよ」
と、きびしい目で、女を見下ろしました。
王妃さまは、すぐにでも、女が泣いてあやまると思ったのです。
ところが、女は、くつを拾って、すっくと立ち上がりました。その背の何と高かったことでしょう。
そして、汚いマントを、さっと、ぬぎ捨てると、その下から、ピカピカに輝く木の葉のドレスが現れたのです。召使いたちは、「あっ」と、飛びのきました。
「大変だ。森の魔女だ」
けれども、王妃さまだけは平気なふりをして、魔女をにらみつけ、なおもふんぞり返りました。そのようすを見た魔女は、からからと笑い、
「おまえさんの願いは、確かに、引き受けたよ」
と、言いのこして、すたすたと、木々の間に消えました。

伊藤由美 について

宮城県石巻市生まれ。福井市在住。 ブログ「絵とおはなしのくに」を運営するほか、絵本・童話の創作Online「新作の嵐」に作品多数掲載。HP:絵とおはなしのくに

伊藤 耀 について

(いとう ひかる)福井県福井市生まれ。福井市在住。10代からうさぎのうさとその仲間たちを中心に絵画・イラストを描き始める。2019年からアールブリュット展福井に複数回入賞。2023年には福井県医療生協組合員ルームだんだん、アオッサ展望ホールその他で個展開催するほか、県内アールブリュット作家展に出品するなど、活動の幅を広げている。現代作家岩本宇司・朋子両氏(創作工房伽藍)に師事。HP:絵とおはなしのくに