「お待ち!」
鋭い声とともに、木の葉のすそを引いて、森の魔女が入ってきました。
腰のベルトには、あの金の靴がぶらさがっています。
魔女は、あっけにとられている人々には見向きもせず、アウロラに近づいて、その額に、細長い指先で、軽くふれました。
たちまち、アウロラは白い鳥になって、窓から飛んで行ってしまいました。
「ああ、何するだ」
びっくりしたハンスは、魔女につかみかかろうとしました。
でも、魔女が、さっと、手を上げたとたん、体がガチンと固まって、動くことができなくなりました。大臣も、兵隊たちも、みな、同じです。
魔女は、その間をゆうゆうと歩き回ったあと、ハンスの前に立ちました。
「心配はいらないよ。私は、その昔、王妃に約束したことを果たしに来たまでさ」
「そんなことは知らねえ。すぐに、アウロラさまを返してくろ」
くってかかるハンスを、魔女は、じっと、見下ろしました。
「おまえは、本当に、心から、アウロラのためを思っているかい」
星々の後ろに沈む暗やみのような、何とも底知れない目です。
「思っているなら、しばらく、辛抱をおし。人が幸せになるためには、賢くなくちゃならない。そのために、あの娘は、ひとり、遠くへ旅をして、広い世界を知らなくちゃならないのさ。おまえには、その間、ちゃんとこの国を治めて、あの娘の帰りを待っていてほしいんだ。どうだい、できるかい」