『はなのすきなうし』
マンロー・リーフ 作
ロバート・ローソン 画
光吉夏弥 訳
岩波書店
読書大好きっ子だったわたしの小学生時代のことです。薄暗い図書館の使い古された茶色い本棚の中に、目を引く赤い背表紙のこの本を見つけて手に取り開いた時の感動は今も忘れられません。
赤地に黄色い題字、ちりばめられた白抜きの小さな花の図案に飾られた表紙とは正反対の、中身は版画を思わせる大人びたイラスト、そして文章は、いままで見たこともないオリーブ色で印刷されていました。文字といえば、「黒」と勝手に思い込んでいた当時のわたしには、薄いインクのようなこの色合いは、非常に新鮮で、心に響くものでした。
お話の舞台はスペイン。大勢の牛たちが飛んだり跳ね回ったりして遊んでいる中で、1匹静かに木陰に座り花の香りを楽しむのが大好きな、すこし変わった趣味を持っていた、牛のフェルジナンド。ちょっとした事件がきっかけで、闘牛をスカウトしに来た人の前で大暴れをして、牛たちあこがれの場であるマドリッドで、闘牛に出場することになるのですが・・・。
作者のマンロー・リーフはフェルジナンドの趣味を「よい趣味」といい、また、「優れた個性」と発言しています。この本が出版された当時は、ちょうどスペイン内紛が起きていた背景もあり、闘牛がおはなしの重要なアクセントになっているので、戦争に対する作者の姿勢が表現されているようにも感じられます。
もし、わたしたちそれぞれが、フェルジナンドのように選択することができたら、いま現在世界中で起きている紛争や民族間の対立も、少しは減るかもしれません。
そして、フェルジナンドのお母さんが「よく、もののわかった」牛ではなかったら、1匹でさびしそうに見えるフェルジナンドを無理やり兄弟たちと遊ばせて、好きではない遊びの中で元気をなくさせてしまったかもしれません。
闘牛場内でフェルジナンドが慌てもせずに、花の香りを楽しめたのは、自分の行動に自信があったからで、それは、かつてお母さん牛が、フェルジナンドを認めてくれたからでしょう。
フェルジナンドは闘争を選ばない、優れた個性の持ち主でした。でも、それを発見して育て、開花を促したのは周りで見守るお母さん牛です。
周囲と違うように見えても、その子どもの個性を認めて、子どもの選択を尊重してやれる、「よく、もののわかった」大人の存在が大切なこともそっと教えてくれる1冊です。
(ナークツイン・さとうみえ)
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