水のお城(1/6)

文・伊藤由美  

1 湖の精

むかし、おじいさんは覚えていないが、ひいおじいさんは覚えているほどのむかし、ある国に、3人の王子がいました。
いちばん上の王子は、強く、かしこく、国を治めるのにふさわしい人がらでした。
3番目の王子は、心が優しく、思いやりがあり、人々に、たいそう、したわれていました。
兄と弟に比べて、中の王子は、男神と見まがうほど、ハンサムではありましたが、心の冷たい、ひねくれ者でした。
王子にふさわしい勉強や武芸は大きらい。悪い仲間と町にくり出しては、娘たちに悪さをしたり、お酒を飲んであばれたり。町の人々に、ひどく、いやがられていました。

父親の王様は、
「おまえはろくな者にはならぬ。兄や、弟をみならって、心を入れかえよ」
と、いつも、しかりつけていました。
だが、ある時、王子が、美しいくり毛の馬欲しさに、家来をおどして、取り上げてしまったと知って、とうとう、かんかんにおこってしまいました。

「おまえのような者を、わしの王国においておくわけにはいかぬ。そのくり毛を連れて、さっさと、出ていけ!」
中の王子は、馬を、一頭、与えられただけで、国を追い出されてしまいました。
さすがの王子も、これには、へこたれました。

伊藤由美 について

宮城県石巻市生まれ。福井市在住。 ブログ「絵とおはなしのくに」を運営するほか、絵本・童話の創作Online「新作の嵐」に作品多数掲載。HP:絵とおはなしのくに