『今こそ、何もかもが元通りになったのだよ。この石は、もともと私のものだったのだからね』
こう語りながら、女は、木の葉の衣しょうをまとった魔女のすがたに変わって行ったわ。
『泣くのはおよし。だれも死んではいないのだから。水に飲まれた者たちも、これから先は湖底のお城で、無事に暮らして行くだろうよ。ガラスのひつぎから目覚めたリムニーに仕えてね。
王のことさえ、少しも心配はいらない。私を裏切り、ひどい目に合わせた男だが、私はじひ深いから、命までうばいはしなかったのさ。ただ、樹木と同じだけのじゅ命を湖の精の夫として、これから先、ずっと冷たい湖底で暮らすことになるだろうけどね。
気の毒と言えば、二度と暖かい日の光を味わうことがないってことかしら。でも、いいことだってあるよ。おまえが生んだ魚の王子たちと、顔を合わせて、これから先いつまでも仲良く暮らすことができるんだからねえ』
女は、小気味よさそうに笑いながら、とまどう私を残して夜のやみに消えてしまったわ。
それから数日、私は、あちらこちらをさまよって、やっとここへたどり着いたの」
水のお城(6/6)
文・伊藤由美