ステルスおばあちゃん(1/8)

文・伊藤由美   絵・伊藤耀

1 コスモ博士、なやむ

五所河原 初(「ごしょがわら はつ」と読みます)さんは今年96歳。かくしゃくとして、とても元気です。
小がらだけど、もともと、とてもじょうぶで、しゅみも豊富。若い時には山登りが好きで、日本中、登っていない山はないくらいです。
みんなからは「ハツさん」と呼ばれています。

60歳を過ぎて始めた水泳は、シニアの部で、毎年、全国大会に出場し、80歳以上の部で、優勝したこともあります。
でも、さすがに、90歳を過ぎたくらいから、物忘れをするようになりました。

「あれはどこに置いたっけ?」
「あの人はどこのご近所さん?」
息子のコスモ氏が、このごろ、いちばん、困っていたのは、ハツさんが玄関の明かりセンサーのことを、すっぽり、忘れてしまうことでした。

ハツさんは、夜、玄関の明かりがひとりでにつく理由が、どうしても、納得できません。
「コスモや、玄関の明かりが消えませんよ」
それもそのはず、ハツさんが玄関に出て、明かりを見上げているものだから、センサーがハツさんがいることを感知して、ついたままなのです。
ずっとついたままなので、ハツさんは、ずっと、明かりを見上げています。だから、明かりは、ずっと、ついたまま。

「こしょうしたのね、きっと」
「ちがいますよ。センサーが母さんがいることを感知しているんですよ。母さんがそこをどけば、ひとりでに消えます。だから、つっ立っていないで、中に入ってくださいよ」
ハツさんが明かりセンサーのことで、ごちゃごちゃ、言い始めるたび、コスモ氏は、いっしょうけんめい、説明します。でも、ハツさんは、すぐに忘れてしまい、何度も、出たり、入ったりをくり返すのです。

伊藤由美 について

宮城県石巻市生まれ。福井市在住。 ブログ「絵とおはなしのくに」を運営するほか、絵本・童話の創作Online「新作の嵐」に作品多数掲載。HP:絵とおはなしのくに

伊藤 耀 について

(いとう ひかる)福井県福井市生まれ。福井市在住。10代からうさぎのうさとその仲間たちを中心に絵画・イラストを描き始める。2019年からアールブリュット展福井に複数回入賞。2023年には福井県医療生協組合員ルームだんだん、アオッサ展望ホールその他で個展開催するほか、県内アールブリュット作家展に出品するなど、活動の幅を広げている。現代作家岩本宇司・朋子両氏(創作工房伽藍)に師事。HP:絵とおはなしのくに