「無念だ!」
「大丈夫です! まだ、アンテナは、しっかり立っていますから!」
「そうか。ワシもやるだけのことはやるぞ!」
猿神さんの右足に、力が入るのが、わかる。
その直後、道路の上で、キャロちゃんは、クルクルと円を描き、路肩の雪に突っ込んだ。
「しまった! 滑った!」
猿神さんが、叫ぶ。
キャロちゃんをバックさせようと、ギアを入れ替え、アクセルを踏むが、タイヤは空滑りを繰り返すだけだ。
「アキラ、前から押してくれ」
「わかりました!」
積もった雪に分け入って、ボンネットに手をかけるが、びくともしない。
「掘り出すしかないな」
猿神さんは外に出て、バックドアからスコップを取り出してくる。
「もう1本は?」
通販なら、あるはずだ。
「家の玄関口だ」
ああ、あれね。
「ワシがキャロちゃんを掘り出している間、おまえは、黒岩に電話して、ここに呼べ」
「わかりました」
と、金色の蓋を開けてから気がついた。
「黒岩さんが持っている社用の携帯の電話番号は?」
「ワシが知っていると思うのか?」
「聞いたオレが、バカでした」
言ったとたん、以心伝心、金色の小さな塊が、大音量を響かせた。
♪ 赤い夕陽を 身にまとい
♪ 行くぞ 我らの ヒーローが
♪ それゆけ それゆけ ワアアイルド キャアアッツ!!
聞き慣れた戦隊物のメロディーだ。
急いで受話器マークを押すと、着信音をしのぐ大音量が、耳を打つ。
「黒岩金太、キミが昨日のデート、キャンセルしてくれた件だけど、アタシ、やっぱり許せない!」
「こ、この番号は、黒岩さんのご都合により、現在使用されておりません」
なんて、オレ、つい、言っちゃったけど。
黒岩さん、ほんとうに、ごめんなさい。
ヒーローに守ってもらってください。