キャロちゃんのタイヤは掘り出したが、やはり、バックはできなかった。
「アキラ、車が来たら、止めてくれ」
猿神さんは、リアバンパーにロープを通す。
車の力を借りて、路肩から道に戻す作戦だ。
「了解です!」
が、この車通りの少ない道で、その作戦は可能なのか?
と、見れば、黒い車が目に入る。
オレたちは、なんて、ラッキーなんだ!
車は、ものすごいスピードで、やって来る。
止まってください! 願いを込めて、手を上げる。
が、ダメだ、車は通り過ぎて・・・、んっ? 止まった、そして、バック。
運転席のドアが開く。
出てきたのは、太った男の人だ。
背はオレより少し低いくらいか。
「あれっ?」
にこにこしながらやってくる丸い顔に、見覚えがあるような・・・、でも、たぶん勘違いだな。
「あの、この車を道路に戻したいのです。力を貸してください」
「わかりました。少々お待ちを」
丸顔の男の人は、会釈をし、後ろのドアに手をかける。
後部座席から出てきたのは、すらりと背の高い男の人だ。
その人は、オレの目をのぞきこむ。
「アキラ、だね?」
「そうですが・・・」
「私と一緒に来てくれないか」
「えっ?」
そんなこと、突然言われても・・・。
それに、なぜ知ってるんだ、オレのこと。
この凸凹コンビ、怪しくないか?
「すみません。今、急いでいるので」
「そんなに時間は取らせないが」
と腕を取る男の人の手を、オレは、思わず払ってしまった。
軽く払ったつもり、だった。
が、男の人は地面に転がった。