「あのう・・・」
おずおずとと手を挙げたのは、犬田さんだ。
「自分、話してもよろしいでしょうか?」
とオレの方を向く。
「どうぞ」
「自分、津軽さんの研究助手の、犬田力男です。アキラさんの毛髪を採取したのは、自分ですが、血を抜いたり、缶コーヒーに睡眠薬を仕込んだ覚えはありません。でも、すみません」
犬田さんが頭を下げると、
「では、ワシらは、どうして眠り込んだんだ? キッパリ、スパッと、白状しろ」
猿神さんが声を荒げた。
「それは、ここにお伺いした折に、玄関先でちょっと・・・」
言いよどむ犬田さんに、
「ちょっと、なにをした?」
猿神さんがどすをきかせる。
「先程と同じように、催眠術をかけさせていただきました」
「催眠術、ですか?」
実際にそんなものを扱う人がいるんだ、とオレは、犬田さんをまじまじと見つめた。
「ハイ、自分、こう見えて、催眠術の達人でして。1時間で目覚めるように暗示を・・・」
そういえばぜんざいを食べている時、インターホンが鳴り、出て行ったような・・・、と微かな記憶をたどる。
「そういえば、ワシ、ぜんざいを食べている途中・・・」
猿神さんも、眼光鋭く宙を睨む。
「アキラに呼ばれ、玄関まで出て行ったような・・・」
「ハイ、いらしゃったのです。そこで津軽さんのご指示通り、先ず、猿神さんとアキラさんに事情をお話ししました」
犬田さんは健康状態解析用のオレの毛髪と、チャッピーを回収するためにここにやって来た。
「そして、ここに居る猫を返してくださいと申しますと、猿神さんはお怒りになりました。ですから、自分、やむなくおふたりに催眠状態に入っていただいてから、アキラさんには髪の毛を少しくださいとお願いし、猿神さんには、猫を連れて来てくださいとお願いしました。アキラさんには毛髪をいただいたのですが、ただ、」
「なんだ?」
「猿神さんは、ワシは猫は嫌いだ! と、中に入ってしまわれまして。アキラさんも、中に入ってしまわれて」
その様子が目に浮かび、オレは、ついつい笑ってしまう。