王様になれなかったくま(2/4)

夜の森は、いつも遊んでる森とはまったくちがいました。月あかりしかないため、道もよく見えません。強い風がふき、木がミシミシと音をたてます。チャロはこわくなりました。
でも、まっ赤なカリンの目を思い出したら、急がなくてはいけません。チャロは走りました。

「いたっ!」
あわてていると、何かにつまづきました。見ると、そこには大きな足あとがありました。かたちはチャロの足あとにそっくり。でも、とても大きくて、地面がへこむくらい深い足あとでした。

「うわぁ、だれの足あとだろう?」
チャロは、電気が走ったようにブルっとふるえました。
気を取り直して、木に登りハチミツをとります。
「いいハチミツだ。カリンのお母さんも元気になるぞ」

つぼのふたをキュッとしめて木からおりると、後ろの方で、バキッとえだがおれる音がしました。
音はだんだん大きくなり、どんどんチャロの方に近づいてきます。

山本真由美 について

東京都在住、3児の母です。子ども達が小さい時は育児一色の生活をしていました。 実家のある地方に子ども達と帰省していた時、突然強い風が吹いてきて周りの木々が揺れました。身構える私の横で、2歳の息子は目をキラキラさせて嬉しそうに手を広げていました。風の音、草木の匂い、赤や紫がにじむ夕方の空。そんな一つひとつのことに喜んで全身で感じようとする子どもたちを見て、その感性に届くお話を書きたいと思いました。