銀のかけら流れる川のほとり(2/5)

いつのころからでしょう。
少女は思い出そうとします。

写本 -2銀のかけら流れる川のほとりいったい、どれほど前からここで星のかけらを、たったひとりで拾っているのか。
少年はいつからあそこにいるのか。
思い出し、考えようとすると、少女の頭の中は、かすみがかかったようになります。

朝起きて、着替えて、川で顔を洗い、髪をとかし、透明な水と魚を飲むこと以外の記憶が、少女にはないのだ、ということを、少女は、かすみの頭の中で、何度も気づくのでした。

川の色が、夕暮れを告げるすみれ色に変わるころ、バケツはいっぱいになります。
きょうのかけら拾いは終わりです。
いっぱいになったバケツを岸辺におくと、少女は、またひとすくい、水と魚をすくいます。

それを飲みほしたあと、向こう岸に目をやります。
たいてい、少年は、まだそこにいました。

少年はこちらを見て、少女に手をふることもありますし、星のかけらを拾うのに夢中で、少女の視線に気がつかないこともあります。

少年に向かっておじぎをしたあと、夜が川を包む前に家に帰らなくては、と少女は川から出ます。
重いバケツを持って、家に着くころには、たいてい陽はすっかり暮れています。

北森みお について

小説、童話、脚本など執筆。日本児童文芸家協会研究会員。 主な作品に『星夜行』(パロル舎/広島本大賞ノミネート)、『時の十字架』(鉱脈社/Qストーリー大賞優秀賞)、『ひろしまの妖怪』(中国新聞『おはなしばこ』掲載)、『北極星の夜』(『日本児童文学』掲載)、『深海魚のユメ』(国木田独歩記念事業文学祭入賞)、『T字橋の欄干」(広島市民文芸一席入賞)、『つばさ屋』(ラジオドラマ脚本)『星夜行-約束のリボン-』(ラジオドラマ脚本)など。 電子書籍に『美しいかけらの物語-ワニと薬指-』(ティアオ)、 『ホテルねこ堂』(星の砂文庫/童話と絵本コンテスト審査員特別賞) などがある。 近年作詞も手がけ、提供した楽曲に「風のソネット」「ロマンチカ」(作曲、歌はメロディストの田中ルミ子さん)などがある。