3つの願い(2/5)

文・伊藤由美  

それから、また、せっせと、水くみや、洗たくにせいを出し始めました。まるで、セムがそこにいることなど、忘れてしまったかのように。
でも、セムは、井戸ばたの石にこしを下ろしたまま、おかみさんの言ったことを、じっと、考えていました。

(もし、にょうぼうにするなら、だれがいいかって? 水車小屋の娘も、かじ屋の娘も、国中、どこを探したって、あんなべっぴんは見つかるまい。だが、長年連れそうとなると、考えものだぞ。ううむ・・・)
セムの心の中で、どんどん、望みがふくらんでいくことに、だれも気づきませんでした。

やがて、あみ上がった花かんむりを頭にのせて、3人の少女が、そろって、井戸の方へやって来ました。まるで、「ねえ、だれが一番きれい?」とでも言うように。
その様子を、目を細めて見ていたセムは、とつぜん、立ち上がって、つかつかと、少女たちの方へ歩いて行きました。

「あれ、あんた! まさか、本気で!?」
おかみさんたちが気づいた時には、もう、手おくれでした。セムは、一人の少女の手をつかんで、さけんだのです。
「これが1つ目だ! 1つ目の願いだぞ!!」

伊藤由美 について

宮城県石巻市生まれ。福井市在住。 ブログ「絵とおはなしのくに」を運営するほか、絵本・童話の創作Online「新作の嵐」に作品多数掲載。HP:絵とおはなしのくに