2億4000万分の一のキセキ!(1/11)

文・ニケ  

パパはソラが生まれる前から、度々海外に出張していました。おかげでソラが生まれた時も、七五三の時も、小学校の入学式の時もソラがいてほしい時にはいつもいませんでした。でも、もう大じょうぶです。これからはパパはいつだっていっしょです。ソラはホッとしました。
ただ、ひとつだけ、心配なことがありました。お引っこしする町には、日本語をしゃべれる人がひとりもいないらしいのです。ひとりもです!

「あっち行ったら言葉通じないんだぞ! オレは中学校で英語を習っているけど、ソラは自分の名前をローマ字で書くくらいしかできないだろ」
お兄ちゃんは少しだけ自まんげに言いました。
「子どもはなれるのが早いから、大じょうぶだよ」
パパはカバンから買ってきた英語のビデオを出しました。
「そうよ。子どもはのうミソがやわらかいから、すぐになれてペラペラになるわよ」
ママも気楽な顔で言いました。

でも、ソラはやっぱり不安です。だって、パパが買ってくれたビデオを見ても、何を言ってるかまるでわかりません。テレビに近寄って口の動きを見ても、チンプンカンプンです。
そこでソラは、勇気を出して聞いてみました。
「ねぇ、パパ。どれくらいたったら、ボクはペラペラになる?」

もし、1年なんて言われたらどうしよう。地ごくです。ソラは心ぞうが口から飛び出してきそうでした。
「そうだな。3か月もすればペラペラになるよ。大じょうぶだ。ソラ、心配するな」
パパはソラの頭をやさしくなでました。
「絶対?」
ソラはパパの顔に穴があくくらいみつめました。

「ああ、大じょうぶだ。友だちもすぐできるよ」
「ホント? ホントに友だちすぐできる?」
パパはソラをだき寄せました。そして、ソラの耳元でこう言ったのです。
「同じままでいるより、いろんな変化があったほうが楽しいぞ。新しいソラに出会えるなんて、ステキだと思わないか?」

ニケ について

東京大学大学院医学系研究科博士課程修了(学術博士)。読んだ人がちょっとだけハッピーになる言葉を奏でます。