むかし、みちのくの山間の村に、おまつという女が、年老いたばあさまと、小糸という、四つになる娘と暮らしていました。
家は貧しく、ねこの額ほどの地面があるばかり。
おまつは働きづめに働いて、女手ひとつで、暮らしを支えていました。
日の出から野良に出て、おまつは、一生けん命、働きました。
そして、一番星が見えるころ、やっと、重い足をひきずって、わが家へと向かいます。
その時分になると、幼い小糸はばあさまといっしょに、夕陽におされて、くたびれて、それでもせいいっぱいの急ぎ足で帰ってくる母親を、家の前で待っていました。
かたむいたわらぶき屋の下、こしの曲がったばあさまのそばに、小さな女の子のすがたを見つけると、おまつの心ははずみます。
1日のつかれも、つらさも、いっぺんに吹き飛んで、おまつは走ります。
小糸も、ばあさまの手をはなれて、小鳥のようにかけて来ます。