週明けの月曜日、部活がはじまるとすぐ、コーチの義道(よしみち)先生がみんなを集めた。
「来週の金曜日は、東和(とうわ)小学校と試合をするぞ。スタメンは、池辺淳(いけべじゅん)、吉岡浩司(よしおかこうじ)、田口(たぐち)・・・それと、髙良陽太(たからようた)、以上。準備しとけよ」
義道先生が、こぶしをぐっとにぎり、「勝つぞ!」と笑った。チームのみんなも自然と笑顔になる。
「っしゃー! 気合入れていくぞ!」
淳を中心に円陣を組んで声をあげ、練習へと散っていく。
陽太は、スタメンに選ばれたうれしさと同時に、ひたひたとおしよせる不安にも、フタをすることができずにいた。
淳の身長は、165㎝を超える。浩司も160㎝を超えたと言っていた。シュートだけの成功率では、陽太は、チーム内でも1、2の位置についている。しかし、試合になると、どうしても淳にはかなわない。低い位置でのドリブルや俊敏さでゴール下までたどり着いても、ボールを放つと、淳や浩司のような背の高い選手たちに、空中で取られてしまう。
壁のように立ちはだかった、紅白戦の時の淳の姿が、重くのしかかる。
(また、空中で取られたら。やっぱり背が低いと使えないって、思われるんじゃないか)
弥生ウイングスへの入団がかかる陽太にとって、背丈の問題は大きい。だからこそ、少しでも実力をつけようと、陽太はずっとひとりで、自主練習をつづけてきた。だが、どんなに飛んでも、ようやく150㎝をわずかに超えた陽太に、淳の身長は遠かった。
それでもあきらめきれず、陽太は土曜日の今日も、運動公園で練習をしていた。人気(にんき)のない公園には、陽太以外の人影は見えない。
「くそっ!」
投げるたびに決まるシュートが、逆にうらめしい。
(ボールみたいに、ゴールまで、おれの手も届くといいのに・・・。ダンクとか・・・決めてみたいなぁ)
陽太は、自分のはるか高みにそびえるゴールをぐっとにらんだ。どうしようもないきょりの長さが悔しく、歯を食いしばる。
「おいっ!」
そのとき、陽太の頭に、野太い声がふってきた。声の方に顔を向けると、うどん屋のゴトウが、いつもの仏頂面(ぶっちょうづら)で手招きしていた。
(おれ、なんかしたか・・・)
陽太は、おそるおそるフェンスの向こうに回り、うどん屋へ行った。
「なんですか?」
「ちょっと来い」
ゴトウに誘われて店に入る。店内は、午後3時を回って、静まりかえっている。
「ここに座って待ってろ」
ゴトウはそう言うと、のれんをくぐり、ひとりカウンターの中へ入って行った。