2 猿神探偵事務所
足をひきずる男の人に肩をかし、玄関にたどりつく。
武家屋敷みたいな造りの大きな家だ。
間口も、たたきも、そうとう広い。
「さっ、ずかずか上がってくれ」
「おじゃましたほうが・・・」
「いいに決まってるじゃないか。おまえは、そんなこともわからんのか。さあ、遠慮はいらん」
ワシはこんなだから、いろいろと手伝え、と傷めた足首を指し示す。
あれ? さっきと、反対の方、指していないか?
と、記憶をたどる暇もなく、もちろん遠慮する暇もなく、
「台所で鍋に湯をわかしてくれ」
「ついでに風呂もわかしてくれ」
「へそで茶は、わかさんでいい」
男の人は、命じたおした。
そして。
命令を、すべてこなしたぼくは、煙に巻かれた感覚を拭えないまま、いま、ぜんざいを食べている。
アツアツに温めた、レトルトのぜんざいだ。
「ワシの分は3袋。おまえの分は、1袋、2袋か? いや、1袋でいいだろう」
その人は、テーブルに積まれたぜんざいを愛おしそうに見やって、決める。
「あなたが3袋で、ぼくは1袋、ですか?」
「不満、なのか?」
と、問われ、2袋にしたことを、後悔しつつ、食べている。
暑い! と口には出さないけど、すでに体は汗だくだ。
「あの・・・、」
エアコンに目をやると、
「壊れてるんだ」
男の人は、左右の人差指を交差する。
「あの・・・、首を・・・」
その人にだけ風を送る扇風機を見ると、
「首振り装置が作動しなくなったのは・・・」
左手の指を折りはじめる。
右手の指も折りつくし、足の指を折りかけた時、電話が鳴った。