ペンギンのアディ(4/10)

文・伊藤由美  

 4 海

両親は、トトのことで、アディを、少しも、せめませんでした。
「弟の分まで、アディが強く、大きくなればいいんだよ」
親ペンギンの言葉通り、ふたり分のえさをもらって、アディは、どんどん、強く、大きくなりました。

子供たちは、だんだんと、親からはなれて、子供たちだけ、集まってくらすようになりました。
見た目は、まだまだ、もこもこ、灰色でしたが、大きさだけは、親たちと、あまり、変わりません。
それで、トウゾクカモメも、そう、かんたんに、手出しできなくなったのです。
子供たちは、身を寄せ合って、冷たい風や、雪あらしをふせぎながら、親が海から帰ってくるのを待ちました。
その間も、追いかけっこしたり、おなかをぶつけっこしたりして、遊ぶことは忘れません。

中でも、アディは、ずばぬけて大きかったので、走りっこも、おなかのぶつけっこも、いつも、一番でした。
「弟の分まで食べてるんだから、大きくなるのもあたりまえさ」
くやしいものだから、子供たちは、口々に言いました。
「弟はトーカモにさらわれたんだよな。かわいそうになあ、トーカモに食べられちまうなんて。だけど、あんなチビじゃ、トーカモも、食った気がしなかったろうな」
「あんなチビの弱虫、トーカモのえじきにならなくたって、どうせ、いつかは、こごえ死んでいたさ! アディは、あいつの分までエサをもらえて、運がよかったじゃないか!」
アハハハハ!
子供たちは、いっせいに、わらいます。

「うそよ! トトは食べられたりなんか、してない! きっと、どこかに、生きているのよ!」
アディがむきになるので、子供たちは、ますます、おもしろがって、からかいます。
「トトは、弱虫なんかじゃない! あんたたちなんかより、ずっと、勇気のある、強い子だったのよ!」
はやし立てる子供たちを、アディはおいかけ、おなかでつきとばし、上から、ドスンと、のっかって、ピーピー、あやまるまでゆるしません。

伊藤由美 について

宮城県石巻市生まれ。福井市在住。 ブログ「絵とおはなしのくに」を運営するほか、絵本・童話の創作Online「新作の嵐」に作品多数掲載。HP:絵とおはなしのくに