森のまいご(2/3)

文と絵・ひなたのんき

「ほれ、どうだ。食べものだぞ」
オオカミが、くわえていたシャツをはなした。男の子は、ポテッと地面におちる。
「いったぁぁっ!」
ざっくりと、おしりに何かのトゲがささり、男の子は悲鳴を上げてころげまわった。
「いたいぃぃ! 何これ!」
おしりをさすりながら見てみると、周りには、くりのイガがごろごろ。
「おれはこういうのは食わないが、人間は食うだろ。さっさと食え。そして太れ」
オオカミにうながされて、男の子は、おそるおそる、くりのイガに手をのばした。
トゲをつまむようにして、そっと持ち上げ・・・そのままじっと、固まったように動かない。

「・・・どうした?はらがへってるんだろう。早く食え。そして太れ」
オオカミが、横からつっつく。男の子は、こまったような顔をした。
「これ・・・どうしたらいいの?」
「はぁ?」
オオカミは、ぽかんと大口をあけた。

「どうしたらって、食えばいいだろ? 人間は、くり、食うだろ?」
「いや、何て言うか、ぼくの知ってるくりとはちがうって言うか。これじゃ、食べられないんだけど」
男の子は、しげしげとトゲのかたまりをながめ、くるりと回してみたり、高く持ち上げて下からながめてみたりする。

「ぼくがいつも食べてるくりは、もう、トゲとか、なくってさ。パックに入ってるんだ。おうど色で、甘いにおいがして、そのまま食べられるの。お店で買ってくるんだ」
どうやら男の子は、くりといえば、パックの甘ぐりしか見たことがないようだ。

「くりを、わざわざ店で買うのか? 家の庭に、くりの木くらい、生えてるだろ?」
オオカミが、きょとんとして言う。
「庭なんて、あるわけないじゃん。マンション住まいだもの。都会の住宅事情を甘く見ないでよ。それより、これ、パックのくりに、してくれない?」

「おれに言うなよ。おれは、肉しか食わないんだ。くりのパックづめなんて、したことないぞ。そういうのは、人間の方がくわしいだろ」
「えー・・・。どうしよう。このトゲトゲを取ったら、パックのくりが出てくるのかな」

ひなたのんき について

東京都出身です。空と、水のある景色と、物語の世界が大好きです。 絵は描けないけど絵本が描きたいので、絵本の文章を編集さんに見てもらったりしています。 好きな絵本作家は、かがくいひろしさん、長谷川義史さん。 好きな童話は、寺村輝夫さんの「ぞうのたまごのたまごやき」、「こまったさんのオムレツ」。 好きな物語の出だしは、安房直子さん作「きつねの夕食会」の「新しいコーヒーセットを買ったので、きつねの女の子は、お客をよんでみたくてたまりませんでした」。 こんな風に人に衝撃を走らせる一文を、自分もかきたいと思います。