『ヘレーじいさんのうた』
肥田美代子・文
小泉るみ子・絵
文研出版 2021年4月30日刊
世界で一番幸せな国と呼ばれるブータン。
そう呼ばれるようになった由来や国民性が、その国で古くから語り継がれる民話から見えてきます。
また、本当に人を幸せにするものとは?ーーそんな問いかけに対する一つの答えもこの民話から得られるかもしれません。
お話はタンポー、ティンポー(むかし、むかし)というブータンの言葉から始まります。
主人公は小さな村に住むヘレーじいさん。
ある夏の暑い日、畑仕事していると畑の中から大きなトルコ石を発見します。
それを市場へ売って大金持ちになろうと出かけていくのですが、その道中いろんな人たちと物々交換していきます。
まずトルコ石を馬へ、馬をヤクへ、ヤクを羊へ・・・。
初めてに持っていたものよりも価値が低いと思われるものと交換していってしまうのです。
でも、ヘレーじいさんは腕利きの商売人になった気分でそんなことはお構いなし。
まさに日本のわらしべ長者の真逆のような展開で、そこがこの民話のユニークで面白い点でもあります。
そして、最終的にヘレーじいさんが交換して村に持ち帰っものがあります。それは・・・。
この絵本は、本当に人々の幸せに貢献するものとは、物質的なものではなく、人々の心を豊かにする形のないものであるということを私たちに教えてくれているようです。
小泉るり子さんの絵は、目の粗い紙に色彩のはっきりした力強いタッチで描かれていて、とても印象的です。
ブータンの民族衣装や登場人物の表情なども豊かに描かれています。
幼少期にこういった民話に少しでも多く触れて育つと、道徳心や人生観を形作る助けになるだけでなく、大人になった後も人生のふとした瞬間にその記憶がヒントとなり気づきを与えてくれることもあります。
民話には長年語り継がれるだけの深いメッセージが込められているのです。
ぜひ親子で一緒に読んでいいただきたい一冊です。