『キャベツ姫』
エロール・ル・カイン 作・絵
灰島 かり 訳
ほるぷ出版
この作品は、エロール・ル・カインの絵が好きで、私がコレクションしている中の一冊。ル・カインは名作童話の挿絵作品を多く残していますが、『キャベツ姫』は挿絵だけでなく、童話も書き起こしている貴重な作品です。
この物語の主人公は、ある国の王さま。王さまはいつも文句ばかり言って、お城の中にいる家族や家来たちのことも、けなしてばかりいました。
王さまには年頃になった美しいお姫さまがおり、諸外国の王子さまから縁談話が次々と舞い込んできましたが、お姫さまは内気なため、すべて断ってしまいます。
そんなある日、王さまの元に、自称「森の王さま」というある男がやって来て、自分の息子のお妃に、お姫さまを迎えたい、という申し出がありましたが、その男の容貌を見ただけで判断し、追い返してしまいます。
恨みをかってしまった王さまは、自分の不平不満が現実になるという呪いをかけられてしまいました。
呪いに警戒していた王さまでしたが、申し分のない縁談をお姫さまがまた断ってしまったので、怒りが爆発し、お姫さまのことを「いくじなしの、ぼんくらキャベツ!」とののしってしまいました。お姫さまはたちまちキャベツのお姿をした「キャベツ姫」になってしまいました。
侍女たちもニンジンやキュウリなどの野菜に、そしてお妃さまや家来たちは、雌鶏や家畜の姿になってしまい、誰も王さまのお世話ができなくなってしまいました。
話し相手もなく、途方に暮れた王さまのもとにまた「森の王さま」というあの男がやってきてあることを告げます・・・。
王さまとキャベツ姫をはじめとした王国の人々は、幸せに生まれ変わることはできるのでしょうか?
見た目で判断し、人の本当の心を見ようとしない王さまは、自分自身の醜い心に自らが支配されてしまったのです。「口は災いの門」と言いますが、日頃自分自身が心の中で唱えていることが現実となるのは、今も昔も変わりません。いつも幸せなことを考えて努力していれば光も見えてきますが、いつも不平不満を言って、それが現実になると、不幸が舞い込んでしまいます。
この絵本は、王さまを通して、自分自身に潜むネガティブ思考に支配されないように、また自分だけではなく周りも不幸にする、という警告にもなりました。
小さなお子様にも、悪口や文句は言っちゃダメ!ということがわかるように、おとぎ話と挿絵を通して、伝えているかのように思います。
個人的な解釈ではありますが、一つひとつの挿絵の中に、必ず暗い色彩の部分と、明るい配色が施されており、人間の心の裏と表、この世の裏と表、そして闇の中にも希望の光がある、と絵でも表現しているかのようにも感じました。各ページの挿絵の細かく描写された隅々まで目を凝らしてみるのも、毎回発見があって楽しいでしょう。
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