あるおてんきのいい、はるのことでした。
ようちえんくらいの男の子が、おかあさんと手をつないでやってきました。
「ちかくにこんなステキなこうえんがあってよかったわねえ。あら、あそこにきれいなさくらがさいているわよ。」
えだをひろげているさくらの木はまんかいで、ときどき、うすももいろの花びらが、かぜにまっています。
「あっ、さくらの下にベンチがある!」
男の子は、おかあさんの手をふりほどき、ベンチにむかってはしり出しました。
そうして、右のベンチにすわると
「わぁい、一とうしょう! おかあさんも早く、早く!」
と手まねきしました。
右のベンチは、きゅうなできごとにびっくりしました。
なぜって、左のベンチにだれもすわっていないときに、じぶんにすわってもらうのは、はん年ぶりのことでしたから。
「うわぁ、おいしいそう!」
おかあさんのつくってくれたおべんとうをひろげて、男の子はとってもうれしそうです。
そのとき、からあげの上に、ひらひらと、さくらの花びらが二まい、まいおりました。
「おかあさん、見て見て。おにくに、おかおができちゃった」
右のベンチには、おかあさんと男の子のしあわせがつたわってきます。
(これが、左のベンチくんがいってたことなんだな。ぼくは、どうしていままでそれに気がつかなかったんだろう。いつまでも、この二人のえがおが見ていたいなあ。ぼくは、なんてしあわせなんだろう)
「ベンチさん、ありがとう! またくるね」
男の子はかえるときに、右のベンチにいいました。
右のベンチはそれをきいて、おもわずにっこりほほえみました。なんだかこころの中が、ぽかぽかします。
それからというもの、どちらのベンチにも、たくさんの人がすわるようになりました。
右のベンチは、左のベンチとよくおしゃべりするようになり、まい日がたのしくなりました。
もう、さびしくなんてありません。
きょうもこうえんには、みんなのえがおがあふれています。
「こうちゃんって、おだんごつくるのじょうずねえ」
ひっこしてきたばかりだった、あの男の子は、みじかいかみの女の子と、すなばでなかよくおだんごをつくっています。
一人ぼっちだったおじいさんにも、ともだちができ、うれしそうにおしゃべりをしています。
ベンチたちは、ニコニコとみんなのようすをみまもっています。
まいばん、みんながかえったあとのこうえんで、二つのベンチは、きょう見たしあせなできごとをはなします。
「ピンクのふくの女の子、きょう、はじめてあるいたんだよ!」
「ママ、大よろこびしてたね」
「おじいちゃん、おともだちがたくさんできてよかったね」
「今では、おじいちゃん、こうえんのにんきものだね」
はなしながらだんだんねむくなっていくベンチたちの、さいごのことばはいつもおなじです。
「あしたもはれるといいね」
「うん。またみんなのえがおがみたいからね」