国立病院機構埼玉病院 CT室イラスト制作の裏側
営業用のフライヤーをいつも持っている私。
それを知り合いに渡すと、そのつながりで病院関係からのイラストの依頼がきました。
依頼とは、病院の装置にイラストを描くというもの。そのような仕事は初めてなので、担当である診療放射線技師さんにお話をきいてみました。
すると「新しくCT装置を導入することになり、その装置の丸い部分にイラストを入れたい」という漠然としたお話でした。
気軽に受けたのですが、仕事は仕事。いい仕事をしたいので、イラストを描くにあたり、先方のご意見やご要望を取り入れ、イメージ作りをすることに取りかかりました。
先方のご要望をうかがうと、「丸い空間の中に吸い込まれていく水の中の世界」というものでした。なるほど水の世界ねとイメージを膨らませていたら、別の要望がでてきました。それは「宇宙を感じるようなイメージ」。
「水の中の世界」「宇宙を感じるイメージ」!? 正反対の要望が寄せられました。
私の描くイラストは、抽象的で、さかなに羽があったり、星は地面に咲いている・・・。そこで私は、この世にあるものすべてがみんな共存している世界はどうかなと考えました。
その世界観をラフ案にして見ていただくと、先方はとっても気に入ってくださいました。
ところが装置の前面(丸い部分)だけと思っていましたが、なんとCT装置全体に描くことになってしまったのです。
技師さんがこんなことを話してくれました。
「CTの検査を受ける患者さんは、病気で不安なことはもちろんのこと『検査』というものに非常に不安になってしまいます。ですから患者さんが、CT装置のある部屋に入った瞬間に不安や緊張を和らげてあげたいのです」
私はただ自分の絵の世界観をどう表現するかだけを考えていましたが、病院に携わる方々は常に患者側の気持ちを大切に接しておられるのだな、と技師さんの優しさを感じました。
そこで私は病院関係者の皆さんの思いに応えようと、部屋全体を安心できる空間にしたいと強く思うようになり、CT装置だけでなく、壁一面も描かせていただくことになりました。
CT装置の表と裏には、水の中だけでなく、宇宙だけでもない世界。そして、部屋の壁一面には、いろいろな生き物が楽しく共存している世界を描きました。私たち人間もその世界の一員であることを意識しながら。
病院関係者の皆さん、患者の方々のことを思いながら、イラストを描いて、描いて・・・。そしてイラストが納品し、2014年10月、私のイラストの描かれたCT装置と部屋がお披露目となりました。
大人も子どもも、CT室に入った瞬間、不安な気持ちから解放される――私のイラストでそんなお手伝いができていると思うと、私はこの仕事ができて本当に幸せに思います。