『ペッテルとロッタのクリスマス』
エルサ・ベスコフ 作・絵
ひしき あきらこ 訳
福音館書店
社会人になってからスウェーデンの絵本作家エルサ・ベスコフ女史の作品をコレクションしていますが、この作品は「3人のおばさんシリーズ」のうちの1冊。1940年代の作品ですが、3人の独身女性が同じ家に住み、ペッテルとロッタという両親を亡くした幼い兄妹を引き取って育てる、ほほえましい生活ぶりが美しい絵画と共に描かれたシリーズです。その中でも一番のお気に入りが本書『ペッテルとロッタのクリスマス』です。
ペッテルとロッタが3人のおばさんの家で暮らすことになってからはじめて迎えるクリスマスの出来事から物語はスタートします。3人のおばさんたちの隣の家には、これまた独身の“あおおじさん”と呼ばれるおじさんがいて、彼も一緒にペッテルとロッタを育て、食卓はいつも一緒に囲んでいるようです。
当時のスウェーデンでは、各家庭で森に行ってもみの木を切り倒し、クリスマスツリーを飾る風習があり、その森へ行く道中でペッテルとロッタはあおおじさんと共に、いろんな出来事にあいます。スウェーデンのクリスマスはサンタクロースではなく、やぎのお面をかぶった「やぎおじさん」がクリスマスディナーの時間帯に子どものいる家々を回り、直接プレゼントを渡す風習があります。「やぎおじさん」伝説は、サンタクロース同様、子どもにとっては謎の存在でしたが・・・。誰なのでしょうか?
そして、クリスマスが過ぎ、翌年のクリスマスに近づいたころ、ペッテルとロッタはいつも双子の赤ちゃんと一緒に、馬車に乗ってミルクを売りに来る女性を待っていました。しかし馬車は一向に現れません。そこでペッテルとロッタは双子の赤ちゃんのいる女性の家を訪ねることにしました。
ケガで寝込んだ女性は双子のお世話ができずに途方に暮れていましたが、お医者さまのすすめもあって、ペッテルとロッタは3人のおばさんたちの家で双子を預かることにしました。
幼い2人の兄妹がさらに小さな赤ちゃんのお世話をし、1人の人間として、様々なことに気づく機会となりました。その後に待っていた2度目のクリスマスプレゼントとは!? 心優しい幼い兄妹は、双子の赤ちゃんのお世話を通して、おもちゃやお菓子といったプレゼントだけではなく、目上の方々への感謝など大切なものを見つけることができたようです。
私が社会人になってから出会った作品ですが、子どものころに出会っていたかった作品だなと思える一冊です。大人にも気付きを与え、小さなお子さまの心にも響く、ちょっとした冒険や、ハプニングなどが盛り込まれた作品です。
エルサ・ベスコフ女史はスウェーデンを代表する絵本作家。没後60年以上たっても、世界中の人々に愛される作品を多く残しています。便利な世の中になりましたが、タイムスリップして、毎日を丁寧に暮らす知恵も垣間見えるクリスマス絵本です。