庭の優雅なお客様
作:田村理江
ナラ林に優しい風が吹く季節です。 開店の準備を終え、キッチンで遅い朝食をとるユナさんは、
「ピクニックにでも行きたくなる陽気ね」
と、窓から青空を仰ぎました。外で食事を楽しめたら、どんなにワクワクするでしょう。
「そうだわ!」
カフェ・ペパミント・スプーンには、狭いながらも前庭があるのです。そこに食卓を作れば、ひととき、ピクニック気分になれるはず。
ユナさんは、丸テーブルを一脚、庭に運び出しました。
開店とともに入ってきた熟年夫妻が、早速、庭のテーブルに気づき、「ここ、いいですか?」
遠慮がちに座りました。そして、
「風も、花の香も、ご馳走だ」
と、大喜び。
いつしか、近所の人や、通りすがりの人たちまで、そこに座って、お茶を注文するようになりました。
オープン・カフェになった庭に、ある朝はやく、優雅な服装のカップルがやって来ました。
黒い帽子に、丈の長い燕尾服の男性と、これまた裾の長いグレイのドレスの女性。恋人同士なのでしょう、テーブル越しに見つめ合い、ほほえみを交わしています。
「ご注文は・・・」
と、ユナさんが外へ出ると、もう姿が見えません。
そんなことが、数日続き、
『きっと、邪魔されたくないのね』
心得たユナさんは、窓からそっと二人を見守るようになりました。
今日の男性は、照れくさそうに黄色い野草を、女性に差し出し、女性はその花を胸に飾っています。
『お茶を頼んでくれないのは、困るけど・・・可愛らしい二人だこと』
身を乗り出したとたん、ユナさんの腕が窓に触れ、かすかにガラス音が響きました。
庭の恋人たちは、慌てて立ち去り、それきり、顔を見せなくなりました。
『もう来てくれないのかしら?』
朝のテーブルには、今日も二羽のオナガ鳥が飛んで来ます。
メス鳥の羽の間に、黄色い花びらがのぞいているのに、ユナさんは気づいたでしょうか?