「お疲れさまー」
みんながホッとひと息ついた時、宮殿の柱のすみっこで、かすかな声がしました。
「わたしは、まだよ」
その声を聞きつけ、見習いエンジェルが、駆け寄りました。
柱のすぐそばに、まだチョコの衣をつけていない苺が、一粒。
見習いエンジェルは、そっと拾い上げ、チョコの鍋へ運びました。
けれど、鍋はからっぽ。今日中に何とかしなくちゃ、せっかくのツヤツヤした苺が腐ってしまいます。
見習いエンジェルの手の中で、苺が泣きました。
「わたし、捨てられちゃうのね。誰にも食べてもらえないうちに」
見習いエンジェルは考えて考えて、それからポンッと手をたたきました。
「そうだ! ぼく、いいものを持ってます」
道具箱から取り出したのは、小さな四角い、透明な箱。
「これは、フレッシュ・キープ・ボックスです。ここに入れば、あなたはずっと、今のままの姿でいられます」
「まぁ、すてき! では、明日まで、中で寝かせてもらうわ。明日になったら起こしてちょうだい。チョコをつけて、おめかししてもらわなきゃ」
箱の中に入った苺は、ビロードのドレスのように赤く輝いています。形だって、芸術品みたいに美しく、見習いエンジェルはうっとり。
「苺って、こうして見ると、とてもきれいな果物なんだな」
チョコの衣をまとった時より、ずっと美味しそうです。
「このまま、とっておきたいな」
だから、見習いエンジェルは、1週間経っても、2週間経っても、苺を眠りから起こさず、箱を宮殿の床下に隠してしまいました。