オニの忘れた子守歌(4/6)

文・伊藤由美   絵・岩本朋子

ふた冬が過ぎました。
どうやら、行者のつえのおまじないがきいているようで、あれ以来、オニが村へ下りてくることはなくなりました。
でも、そのつえは・・・。

「何だか、見るたんび、ちょっとづつ、かたがってきてるみでだなや」
つえがたおれたら、オニが、また、やって来るのでしょうか?
どうにも、落ち着きません。
用心のため、子供たちは、日暮れ前には、家に入るよう、きびしく言いつけられました。

でも、三度目の冬が過ぎて、春の気配に包まれ始めたころ、村人が、たいそう、おどろくことがありました。

まわりの山々が、だれも覚えがないほど、たくさんの桜でいろどられたのです。
もえだしたばかりの木々の緑と、あわい桜色。
山は、ため息が出るほどの美しさでした。
何か、いいことがあるのでしょうか?

伊藤由美 について

宮城県石巻市生まれ。福井市在住。 ブログ「絵とおはなしのくに」を運営するほか、絵本・童話の創作Online「新作の嵐」に作品多数掲載。HP:絵とおはなしのくに

岩本朋子 について

福井県福井市出身。同市在住。大阪芸術大学芸術学部美術家卒。創作工房伽藍を主催。伽藍堂のように何も無いところから有を生むことをコンセプトでとして、キモノの柄作りからカラープランニング等、日本の伝統的意匠とコンテンポラリーな日用品(漆器、眼鏡、和紙製品等)とのコラボレーションを扱い、オリジナルでクオリティーの高いものづくりを心掛けている。また、高校非常勤講師として教えるかたわら、福井県立美術館「実技基礎講座」講師を勤める。