オニの忘れた子守歌(6/6)

文・伊藤由美   絵・岩本朋子

コケコッコォー!!!
一番どりが鳴きました。
それはそれは力強い声でした。
家いえのおんどりが、いっせいに、こたえます。
それらは、村に、山に、こだまして、人々に、新しい朝が来たことをつげました。

てんてん坊は、ゆっくり、立ち上がりました。
鉄のとびらも、ほこらも消え、オニのいた所には、ぽつんと、ひとつ、お地蔵さまが残されていました。
お地蔵様のふところからは、愛らしい子供が顔をのぞかせています。
そして、その足もとには、すんだ泉が、こんこんと、わきだしていました。

てんてん坊は、水を、一口、すくって、飲みました。
「ああ、うまい。いい水だ。とうげを旅して来る人たちには、何よりのなぐさめになるだろう」

『こうしてつぐないとうございます』

どこからか、悲しげな女の声が聞こえてきました。
てんてん坊は、しばし、お地蔵様に手を合わせ、それから、うーんと、背のびをしました。
「さあて、急いで帰らんとな。約束を破ったら、あの子たち、坊主になってあやまると言っても、許してはくれまい」
くすりっと、笑って、衣のすそを、ひょいっと、からげ、てんてん坊は、山道を、とっとと、かけおりて行きました。

これでどんどはれ

伊藤由美 について

宮城県石巻市生まれ。福井市在住。 ブログ「絵とおはなしのくに」を運営するほか、絵本・童話の創作Online「新作の嵐」に作品多数掲載。HP:絵とおはなしのくに

岩本朋子 について

福井県福井市出身。同市在住。大阪芸術大学芸術学部美術家卒。創作工房伽藍を主催。伽藍堂のように何も無いところから有を生むことをコンセプトでとして、キモノの柄作りからカラープランニング等、日本の伝統的意匠とコンテンポラリーな日用品(漆器、眼鏡、和紙製品等)とのコラボレーションを扱い、オリジナルでクオリティーの高いものづくりを心掛けている。また、高校非常勤講師として教えるかたわら、福井県立美術館「実技基礎講座」講師を勤める。