エルとくるみとソラ(6/7)

文・七ツ樹七香  

「くるみ、聞いてくれ。エルは、最期まで家族のみんなやくるみのことが大好きだったよ」
お父さんの言葉に、カッとくるみはほほを染めた。

「そんなの、わかんないじゃん! 犬はしゃべらないんだから。エルは、『なんでここにいてくれないの?』って思ってたかもしれない。悲しい思いさせたかもしれないっ! わたしは犬のこと好きになったら悲しいから、好きになるのをやめたんだもん。ソラは・・・ソラはべつに悪くないけど。お父さんは変だよ。犬なんてぜったいわたしたちより先に死んじゃうのに、どうして何回も飼おうとするの? 悲しいだけじゃない!」
くるみは言った。くるみは涙が出そうなのをこらえ、ぎゅっと口をとじる。
くるみをたしなめようとするお母さんを押しとどめて、お父さんはゆっくり、そしてきっぱりと言った。

「彼らと出会えたことが、幸せだからだよ」
「えっ・・・?」
「出会えて幸せだった。それはぜったいに変わらない」
くりかえしてお父さんは言った。

七ツ樹七香 について

(ななつきななか)熊本県在住 会社員勤務を経てフリーライター・(アマチュア)作家 新紀元社WEBサイト パンタポルタで記事・コラムを執筆するかたわら、WEBで小説を発表。公募活動にも力を入れる。『ピイのとんだ空』で日本動物児童文学賞 優秀賞。熊本県民文芸賞では小説部門を二年連続受賞。本賞で2019年に第1席を獲得した『ラスト・オテモヤン』は熊本日日新聞に全10回連載され好評を博す。本作は作品集収録とともに朗読CD化、熊本県内数カ所の図書館で視聴可能。 ほか、西の正倉院 みさと文学賞 佳作、集英社WEBマガジンコバルト がんばるorがんばらない女性小説賞 大賞など。 児童文学から一般文芸まではば広く手がけている。動物が大好き。犬と小鳥と暮らしている。著書を持つのが夢。