ピイの飛んだ空(2/8)

文・七ツ樹七香  

気の毒だろうとうったえるお父さんに対して、お母さんはかたくなだった。
ふたりの夫婦ゲンカってめずらしいと思いながら、おっかなびっくり背筋(せすじ)をちぢめた秋斗(あきと)は、箱の中のちいさな生き物にそっと指を差し出した。

じっと目をとじていた不細工なヒナは、何かの気配を感じたのかぱちりと目を開ける。
その目はクリクリきらきらなんてしていなくて、すこしねぼけた風だった。
そして、目の前にせまる少年の指先に、ツンと、とがったくちばしをおし当てて、ぱっくりと大きな口を開いた。

――ごはん。

「はら、減ってるんだ」
声なくともわかるそのうったえが、少年の胸(むね)を不意に熱く打った。
「お母さん、これオレが育てる」
「え?」
「オレが育てる。コイツ、はら減ってるって、なに食べるの? ごはんつぶ?」
「バカなことを! ちいさいヒナを育てるのってむずかしいのよ! エサだってこんな未熟(みじゅく)なヒナに何をあげる気? すぐに死んじゃうよ!」
「お父さん、スマホかタブレット貸して」
「え? ああ、けどお前」

秋斗は返事を待たずに父のリュックのファスナーを開けて、タブレットを引き出した。そしてしゃがみこむと、ギュッとまゆを寄せ慣れた手つきで、文字をポツポツと打って検索(けんさく)画面を表示する。

七ツ樹七香 について

(ななつきななか)熊本県在住 会社員勤務を経てフリーライター・(アマチュア)作家 新紀元社WEBサイト パンタポルタで記事・コラムを執筆するかたわら、WEBで小説を発表。公募活動にも力を入れる。『ピイのとんだ空』で日本動物児童文学賞 優秀賞。熊本県民文芸賞では小説部門を二年連続受賞。本賞で2019年に第1席を獲得した『ラスト・オテモヤン』は熊本日日新聞に全10回連載され好評を博す。本作は作品集収録とともに朗読CD化、熊本県内数カ所の図書館で視聴可能。 ほか、西の正倉院 みさと文学賞 佳作、集英社WEBマガジンコバルト がんばるorがんばらない女性小説賞 大賞など。 児童文学から一般文芸まではば広く手がけている。動物が大好き。犬と小鳥と暮らしている。著書を持つのが夢。