ピイの飛んだ空(1/8)

文・七ツ樹七香   絵・久遠あかり

「こいつだ、あのクサいの」
こん虫図鑑で調べるとマルカメムシという、カメムシの仲間だとわかった。
「毒だったんじゃないかな・・・」

ダイニングテーブルでお母さんに問いかければ、むずかしい顔でこう返事がきた。
「多少は毒でしょうよ。あのにおいよ? カメムシだって食べられないために、ああいうクサいの出すんだし。味は、まあ最悪でしょうね。大丈夫(だいじょうぶ)なの? ピイは」
「うーん・・・、今のところ大丈夫そうなんだけど」
「様子、見ておきなさいよ」
「うん」

「ハハッ、お前いい教育したじゃないか。カメムシは食えないって、わかっとかなきゃな」
ソファの上で能天気な返事をしたお父さんを、秋斗(あきと)はちょっとにらんだ。
どんなに心配かなんて、きっとお父さんはわかってないんだ。
あの転げよう、とんでもなくひどい味だったにちがいないのに。
その夜、ピイの様子を思い出しては不安でねむれなかった秋斗は、よく朝けろっとしてエサをねだるピイに心底ホッとした。

七ツ樹七香 について

(ななつきななか)熊本県出身。「ピイのとんだ空」で第30回日本動物児童文学賞優秀賞。 「ラスト・オテモヤン」で第41回熊本県民文芸賞小説部門一席を受賞。熊本日日新聞に全10回連載され好評を博す。本作は朗読CD化、熊本県内数カ所の図書館で視聴可能。 ほか、第1回西の正倉院みさと文学賞 佳作、集英社WEBマガジンコバルト がんばるorがんばらない女性小説賞大賞、第16回深大寺恋物語 調布市長賞など。 共著に『謎解きホームルーム2』『恐怖文庫』『感動文庫』(いずれも新星出版社)動物が好き。犬と小鳥と暮らしている。

久遠あかり について

(くどうあかり) 漫画家。主に児童向け、動物のお話を執筆。ハリネズミや犬を飼い自然と動物好きに。現在は保護猫と暮らしている。また、別名義(光晴ねね)で少女漫画やロマンスジャンルなどで活動中。 pixiv fanbox 光晴ねね https://nene-mitsuharu.fanbox.cc/