「これこれ」
新聞委員としての最後の仕事は、嫌がられようが面倒がられようが、とにかくクラス全員に、自分の字でコメントを残してもらうことだったっけ。
「ふふふ、男子はほんとに一言、オッスとか、よろしく、とかばっかり。女子はまじめに将来の夢を書いているのに」
世界を駆け巡る仕事をしたい、と書いた自分のコメントがこそばゆい。貨物部とはいえ、航空会社に勤め、来年には無事に定年を迎えるのだから、夢は8割がた叶ったのかも。
「トロ君は何て書いたのかしら?」
35人分が並んだコメントを、順に読んでいく。長い空白があっても、次第に名前と顔が一致してくるものだが、一人だけ、記憶から外れた名前があった。
遠井彼方君って、誰だっけ?
消去法でいくと、これがトロ君の本名ということになる。小さな丸い文字で、
「ときどきは、思い出してほしいな」と書かれていた。男子にしては丁寧なコメントだ。
「そうか、あの子、遠井君だっけ。新聞委員で、赤いメガネ、茶色っぽい巻き毛で、どことなく洋風な感じの可愛い子・・・」
律子は同窓会が楽しみになった。後日、届いた案内状には、『珍しくクラス全員が参加、お楽しみに!』と書き足されていた。トロ君も来る。
そう思うと、お洒落に力が入った。