なんと、ワタリガラスの王子が、ふらりと、いすから立ち上がり、歩き出したのです。
「大変だ!」
ラッパ吹きの声に、お城の人たちは、窓辺にかけよりました。
「わあ、どうして⁉」
人々はさけびました。
さわぎに気が付いて、外を見た王様も、こしをぬかすほど、おどろきました。
「ど、どうしてじゃ⁉」
王様は、あわてて、お城から転げ出て、ワタリガラスの王子にすがりつきました。
「どうしたのじゃ、王子殿。日が落ちるまで、あと、数時間のしんぼうではないか! なぜ、今になって、こんなことを? わしの顔にどろをぬることになるのだぞ! いや、わしはよい。わしのかわいい王女の評判をどうしてくれるのだ⁉」
王子は、黒く、ただれた顔をゆがめて、にんまりしました。
「どうしてかって? 私はいすにすわっていることに、ほとほと、あきたからでございます」
「何を言っておる! 今からでもおそくはない。早く、いすにもどるのじゃ。今のことは、見なかったことにするぞ。みなにも、忘れるよう、きつく、命令しよう! たのむ。もどってくれ!」
「いえいえ、何と申されようと、私は、心底、あきあきしたのでございます。身勝手なあなた様にも、木で鼻をくくったような王女様にも」
「なんとむごいことを! ゆるさぬ! 絶対にゆるさぬぞ!」
じだんだふんで、くやしがる王様を残して、ワタリガラスの王子は、ふらふらと、去って行きました。