1 宮本鮮魚店
美里はバスのシートに浅くこしかけ、整理券をにぎりしめていました。
ポーン!
顔を上げると、運転席の後ろ、運賃表示機の「日光町」をふちどっていた光が、ぱっと、「堀の宮」に移りました。
「次は堀の宮、堀の宮」とのアナウンス。
ピンポーン!
すかさず、だれかが停車ボタンをおして、バスはゆっくり止まりました。
「おりる?」
弟の新一がシートから体を起こして、あきあきした声で聞きました。
「まだだよ」
美里は残りのバス停を数えます。
「中山、折原、浜中・・・」
きょうだいだけのバスの遠出はこれが初めて。
家族いっしょの時には、わくわく、うれしいバスの中が、きょうはいやに広く思えます。
「バス停、まちがえないでね。そこまでは高巣のおばさんが迎えに出てくれるから」
美里は「裁判所前」のバス停まで送ってきた母親の言葉を、心の中で、ずっと、くりかえしていました。
(バス停をまちがえない。そこまで高巣のおばさんが来てくれる・・・)
「次は柳原、柳原」とのアナウンス。