「わいが七つの時から、中学にあがるまでおって、ふいっと姿を消したんや」
策作じいさんが鼻をすすった。
「待っても、待っても、チョウコは帰ってこんかった・・・」
「そのチョウコが、帰って来たんですね」
「猫も、猫の魂も、帰ってくるんやな・・・」
「・・・はい」
「・・・ほんでも、また、行ってしもた」
じいさんが、歩みを止めて、空を見上げる。
背中が、さみしそうだ。
「あの、でも・・・。今年は会えてよかったですね! 海辺で遊ぶ、チョウコと佐熊山策作さん、めっちゃ楽しそうでした!」
「ほうか、ほうか」
「それに、またいつか、会えるでしょ?」
いままで姿を見せなかったチョウコだから、来年、会えるとはかぎらない。
けど、でも、いつかあたしたちが行く場所で、チョウコは待っていてくれる。
「近いうちに、か?」
「いやいやいやいや、まだまだまだまだ、ものすごーく先だと思います!」
「ほうか、ほうか」
じいさんは、また、歩きはじめる。
よかった、さみしそうな背中、ちょっと、元気になってるよ。