ぜんぜん不思議じゃなかった3日間(9/15)

文・朝日千稀   絵・木ナコネコ

「いつか、こんなんに会いたかったんや」
策作じいさんは、愛しそうに、ヒスイをなでながら、語った。
「何年か前にな、しのちゃんと・・・」
ヒスイミュージアムに行った時のこと、ふたりは、展示されている美しいヒスイに目を奪われた。
それは、一抱えもある大きな川ヒスイで、名は、『摩耶子の瞳』。
「採集者は東雲東雲、東西南北の東に、」
「あの、簡単に短く」
なんて願い、聞き入れられるはずもなく、続いた長い説明を要約すると、東の雲、東の雲、と書いて、シノノメ トウウン。
などと解説、はさみながらも、語りは続く。

「しのちゃんが、東雲さん、凄い!」と言ったというくだりでは、眉の端がピクピク動き、鼻にしわがよった。推察するに、採集者に、かなりのライバル心を持っているようだ。
「わい、これ、しのちゃんに見せたかったな」
「見せればいいんじゃないですか? ・・・帰ってきていらっしゃる、ような気がします」
「そやな、わいには、まだ、見えんけど・・・」
策作じいさんの肩が、ちょっと落ちる。

しのさん、帰って来ていらっしゃるなら、早く、姿を見せてあげて!
そして、凄い! と言ってあげて!
「あっ、そうだ! これにも、名前つけちゃいませんか?」
「そやな、グッドなアイディアや!」
しばらく天を仰いだ策作じいさんの、小鼻が大きくふくらんだ。
「あのな、キツツキ、『レディしのちゃん』いうんは、どうや?」
「・・・・・・」コメントは、
「そうかそうか、感動したか!」
「・・・・・・」差し控えても、いいですか?

朝日千稀 について

(あさひ かづき)福井県福井市在住。3猫(にゃん)と一緒なら、いつまでもグータラしていられる

木ナコネコ について

(きなこねこ)福井生まれ、大阪住まい。福井訛りの謎の関西弁が特徴。猫と珈琲と旅が好き。