「い、痛っ・・・」
その声に、ハッとして見ると、仰向けに倒れているのは、男の人だ。
横に、怖い顔のかぶりものが落ちている。
よかった!
人間だったんだ・・・。
ホッと、する。
「おまえ、痛いじゃないか」
男の人が、体を起こす。
痛いじゃないかと責められても、その人の素顔が、端正だけど目つき鋭く、怖くないこともないとしても、ゾンビと対峙するよりは、なんぼか、いや、激しくましだ。
「あ、すみません」
「すみませんですめば、警察はいらん!」
「もの凄くすみません」
「もの凄くをつけても、警察は、いる!」
「激しくすみません」
「激しくの、意味がわからん!」
「あ、では、あの・・・、大丈夫ですか?」
「大丈夫だ・・・」
と、その人が顔をしかめる。
「・・・と? おまえは・・・」
「ぼくは、如月幸太(キサラギ コウタ)といいます」
「名前は、聞いてないが」
「はい?」
「おまえは、バカか? と聞こうとはしたが」
「うすうすそうじゃないかと、思わないでもないことも、ないです」
「そうだろうな。この状況で、」
「この状況といいますと?」
「ワシはゾンビの練習をしていたんだ」
「ゾンビの練習?」
「本日、今夜、一時間だけの任務のためだ。受けた仕事は、きっちりやりたい」
だろ? 幸太、とその人は、昔からの知り合いみたいに親し気だ。