ぼくたちは夏の道で(10/12)

文・朝日千稀   絵・木ナコネコ

10 驚き桃の木さんしょの木

「黒岩金太もわたしも、子どもだった。いまなら、平気で聞けたり、問い詰めたりできたのに」
山野辺さんが、しんみりと、つぶやいた。
しかし、そのしんみりは、持続せず、あっと言う間に、宇宙の果てに飛び散った。
ぼくたちが目にしたのは、弾丸のように駆けてくる白い塊だった。

「パピ?」
んっ、えっ? さっき、成仏したはずじゃ・・・。
なんてことは、おかまいなしに、
「パピ!」
山野辺さんが、両腕を広げる。
パピは、勢いよく、その腕の中に飛びこんで・・・、飛びこんで、すり抜けた。

山野辺さんは両腕を広げたまんま、ハテナを顔に貼りつけて、パピが着地した方を向く。
そこに、また、パピは、飛びついていく。
そして、また、すり抜ける。
それを見ているぼくの前に、現れたのは、
「黒岩さん!」
裸足で、こっちに走って来る。

「パピ、パピ」
と連呼している。
パピを追ってきたようだ。
「パピ、そんなに、ジャンプしまくって。しばらく安静にしてろって、あれっ? 幸太くん、それに、チャッピーも。お久しぶり・・・、でもないか」
「はい。ですね」
黒岩さんの姿を見、
「か、彼が、黒岩金太? お、驚き・・・、桃・・・」
立ちつくす山野辺さん。
その腕に飛びこんでは、すり抜ける、相変わらず、同じ動作をくりかえすパピに、
「こら、安静にしろってば!」
声をかける黒岩さん。
山野辺さんの姿は、見えていないようだ。

「・・・そういえば、わたしはあれ以来、黒岩金太に会ってなかった。わたしは県外の大学に行ったし、高校を卒業以来、だ。なんて大きくなったんだ・・・」
山野辺さんのつぶやきも、聞こえていないようだった。

「ところで、幸太くんたちは、どうしてここに?」
「・・・一言では説明できないのですが、いろいろあって。後で、黒岩さんにお聞きしたいこと・・・じゃなくて、お伝えしたいこともあるのです」
「ぼくに?」
「はい。でも、黒岩さんこそ、どうしてここに?」
「パピを連れて、というか、運んできたんだ」
「ええーーーっ!」
仰天した山野辺さんと、
「えええーーーーっ!」
ぼくの声に、驚いたチャッピーとパピが、垂直に跳ねあがった。

朝日千稀 について

(あさひ かづき)福井県福井市在住。3猫(にゃん)と一緒なら、いつまでもグータラしていられる

木ナコネコ について

(きなこねこ)福井生まれ、大阪住まい。福井訛りの謎の関西弁が特徴。猫と珈琲と旅が好き。