ぼくたちは夏の道で(10/12)

文・朝日千稀   絵・木ナコネコ

話を聞いて、ぼくたちが行く前に、パピはすでに黒岩さんに運ばれていたことがわかった。
「脈が弱いように思えたので、山野辺さん宅に連絡をとり、かかりつけの病院を聞き、診察してもらい、点滴を打ってもらってから、ここに連れてきた」
パピが意識を回復するまで様子を見、その後、山野辺さんのおかあさんと、積もる話に花を咲かせていたという。

「みーちゃんに会うのはちょっとなんなので、おばさんにパピを預け、すぐにおいとましようと思ったのだが、」
「えっ? 黒岩さん、どういうことですか? みーちゃんに会うって?」
「山野辺美好、」
「はい」
「ほら、あの、ぼくの初失恋の・・・」
「はい、知っています」
「んっ? ぼく、名前、言ったっけ?」
「いえ、それは、その件は、一旦、あっちに置いて、いま、黒岩さん、みーちゃんに会うって、言いましたよね?」

「ああ。しかし、会わなくてもいい状態なので、ぼくは安心し、おじゃますることにしたんだ」
「会えない状況、ではなくて、会わなくてもいい状態、ですか?」
「みーちゃん、爆睡しているようで」
「ば、爆睡・・・。山野辺美好さんは、生きてるんですか?」

ぼくが質問する横で、
「ば、爆睡・・・。わたしは、ユーレイじゃなかったのか?」
動揺を隠せない山野辺さん。
「なら、この山野辺さんは、いったいなんなんだ・・・」
「だとしたら、わたしは、いったい、なんなんだ・・・」
ぼくたちの、つぶやきが重なった。
しかし、黒岩さんの耳に、山野辺さんの声は届かない。

朝日千稀 について

(あさひ かづき)福井県福井市在住。3猫(にゃん)と一緒なら、いつまでもグータラしていられる

木ナコネコ について

(きなこねこ)福井生まれ、大阪住まい。福井訛りの謎の関西弁が特徴。猫と珈琲と旅が好き。