3 ゾンビの夜
チャッピーを抱いた猿神さんと、ゾンビの頭を抱えたぼくは、夜の駅前広場にいる。
地方新聞社主催、夏祭りカーニバル。
ぼくは、それに参加するのだという。
「受付で、これを見せろ」
猿神さんから、『黒岩金太』と記された身分証を渡された。
「黒岩ってなってるじゃないですか。さ、詐称、するんですか? ぼく」
「大丈夫だ。さっさと仮面をつけろ」
「はい?」
「受付にいるのは、黒岩の後輩だし、ちゃんと根回しはしてある」
「でも・・・・・・」
「四の五の言わず、男は黙って仕事だ、仕事!」
どんっと背中を突かれ、ゾンビの姿で、黒ぶちメガネの男の人の前に立つ。
「お、おねがいします」
身分証を、提示する。
「これをお持ちということは、猿神さんですね? 黒岩先輩から話は聞いています。お世話になります」
男の人は、出席者名簿にチェックを入れて、
「暑い中、かぶりものは大変でしょうが、がんばってください」
ゾンビのボサボサ髪に苦労しながら、首から番号札をかけてくれる。
「あちらで待機していてください。しばらくしたら、音楽がかかりますから、そうしたら、番号順に出て行ってください。行進順路は、サンバ娘たちが先導します」
根回しの効果は抜群で、話はすいすい通っていった。
黒岩さんって人とその後輩、そして猿神さんの関係って、どうなっているんだろう?
そんな疑問はさておいて、一番の疑問を口にする。
「猿神さん、ぼくの出番は近そうです。待機している間に、ゾンビの動き方を教えてください」
「ゾンビの動き方だと? バカか、おまえは。ゾンビになったこともないワシがわかるわけがない。だろ?」
「だろ? って、猿神さんは練習を積んでいたじゃないですか?」
「そんな風に見えたのか?」
「って、猿神さん、自分で言ってたじゃないですか」
「なんでも言ってみるもんだな。ワシ、テキトーにのたうってただけだから」
「そうなんですか・・・」
「とにかく、行ってこい! 行って、テキトーにのたうってこい! ワシは、チャッピーと屋台をまわったりしながら、おまえを待っていてやろう。ほれ、とっとと行ってこい!」
ぼくの頭、いや、ゾンビの頭をがしがしやって、そう言う猿神さんの心は、すっかりお祭りに奪われているようだ。
「さあ、チャッピー、どこからまわろうか?」
甘い声でささやくと、いそいそと背中を向けた。
ふり返りもせず、軽い足取りで、猿神さんは雑踏の中に消えて行った。