細い山道を登り切り、少し歩くと広い山道になる。車も通れそうだけど、いま、道を行くのは、ぼくたちだけだ。
「奴は、きっと、あの上だ!」
白い展望台が姿を現す。
「ほーら、見てみろ、ラヴちゃんも一緒だ」
「ラヴ、ちゃん?」
あれ、あれ、と猿神さんが示す先には、シルバーの大きな車。狭い駐車スペースで、切れかかった街灯にチカチカと照らされている。
「再び、出番だ、幸太。ワシについて来い」
猿神さんに続き、コンクリートの階段を上る。と、そこには、あれ? 影はひとつだ。
「彼女さんは?」ぼくが聞くのと、
「ううううう~」猿神さんが唸り出すのと、
「ぞ、ゾンビ!」黒岩さん(たぶん)が悲鳴をあげたのは、同時だった。
「黒岩さん、ですよね? 大丈夫です!」
ほんものではありませんから、とゾンビの頭を外しかけるぼくを、猿神さんが止める。
「幸太、のたうつんだ! そのままで! リズムに合わせろ! ううっ、ううう~っ、」
怪しげな唸りを発しつつ、
「おりこうさんでいてくれよ」
チャッピーを、フェンス際のベンチに、そっとおろす。
「うううううううう~っ~」
さらに迫力をました唸りは、ぼくには気持ちの悪い念仏にしか聞こえない。
が、黒岩さんの反応は、ちがった。
「♪ 白き霊峰~ ♪朝日に~ ♪誓う~」
唸り声に重ねるように、かすかな声で、歌い出す。
「うう~ ううううう~」
猿神さんの唸りに、動きが加わった。
カンフー拳法のように、キレがある。
「♪ ここに~ つどいし~」
黒岩さんの声が、少し、大きくなった。
「うう~ うううう~う」
「♪ われら~ 風雲もぉ~」
黒岩さんの体も、徐々に動き出す。
「ううう うううう~」
「♪ もろとも せぇずにぃ~」